クレドで会社の未来を変える! 企業経営に「共感」と「共創」を。

〜行動指針の明文化で全員共有の価値観とゴールを明確に〜

左:株式会社ロジェインターナショナル 代表取締役 安達 浩平 様

先の見えないコロナ禍で、企業を取り巻く環境は大きく変化しています。その変化に応じて生き残っていくために再注目を集めているのが「クレド」です。

クレドとは、企業の全従業員が心がけるべき信条や行動指針のこと。明確にすることで、従業員の意識改革やモチベーションの向上が期待できます。そこで、実際にクレド導入を機に社内体制を整えた長野市の株式会社ロジェインターナショナルの代表・安達浩平さんと、クレド作成と浸透に関するコンサルティングを行ったU-NEXUS代表・上野敏良との対談から、導入のプロセスやメリット、成功のヒントを探ります。

  

株式会社ロジェインターナショナル:

https://roger-nagano.com/

長年、フランス料理店をはじめとするさまざまな飲食店で修業を積み、渡仏して現地の食文化も学んだ安達浩平 氏が代表を務める。2012年ケータリングサービス「ロジェ・ア・ターブル」開業。2013年、飲食店コンサルティングやメニュー提案などを行う「roger food labo」業務開始。2016年、法人化。その後、現在までに飲食店の業務委託として「ロジェ食堂 清泉女学院店」「ロジェカフェ サントミューゼ店」、指定管理業務として「ロジェカフェ 長野県民文化会館店」を運営。その他、2011年から通販小売関連事業として雑貨セレクトショップ「ロジェ」も経営。

  

■ 問題は「設備」ではなく「人」にあり

<上野>

安達さんとの出会いは、私が主催していた「長野IT飲み会」という会で毎回、料理のケータリングをお願いしていたことがきっかけでしたね。 

<安達>

その後、業務の効率化のために当社の共有システムをつくりたいと相談に乗ってもらったのが仕事としては最初でした。当時は創業間もない時期だったため、安価で効率のよいシステムの導入を薦めていただいたところに、とても信頼が置けました。ということで、最初の依頼は組織づくりではなく、ITツールの導入支援とトレーニングだったのです。

ところがコロナ禍になって売上が低下し、長年の黒字経営が初めて赤字になって、思っていたより長期化して厳しい経営が続くなか、届いた長野法人会のチラシに刺さるタイトルがありました。

「『デザイン経営』で現状を打破する ~コロナ禍でも対売上前年比125% 成長!! 10年後も選ばれる組織づくり~」。

頭が固くなってきている自分を見つめ直そうとそのセミナーに参加すると、内容がまさに弊社が抱えている問題だったのです。最も響いたのが「バッドサイクル(図1参照)」の話でした。

売上が落ち込む中で、その原因を従業員に問う → 従業員はそれを聞いてモチベーションが下がり、報告をしなくなって消極的になる → 成果が上がらない、と、会社のサイクルがどんどん悪化する事例を聞き「完全にうちの会社だ」と感じました。このバッドサイクルを成功の循環に変えていくことが、まさに当社に必要なことでした。

図1:元MITダニエルキム教授が提唱した組織の成功循環モデルより。

 

 図2:グッドサイクル(関係の質をスタートラインにすることで成功をもたらす循環に)

  

というのも、それまでは正直、コロナ対策として設備投資だけに考えがいっていました。設備を増やすことで自分たちのメニューやプランを増やしていくというものです。しかし、結局これでは設備の維持費に加え、人材も必要になって終わりがありません。そうした中で上野さんの話を聞き、当社の問題は、もちろん私も含め、組織のなかの「人」にあると気づきました。リーダーがきちんと育って、従業員のモチベーションが高い組織であれば、現在の設備でもコロナ禍の不況を克服できると思ったのです。

そこで、上野さんに現状について相談する中で、とあるスナックでのコンサルティングの成功事例を聞き、その原点にあるものが行動指針と共通の価値観であるとわかりました。結局、従業員の価値観が一致しないと自分たちの進む方向がわからないのですが、それが当社にはなかったのです。そこで、皆が同じ方向を向いて理念に従って行動する価値観や基準を作りたいと思いました。

<上野>

企業のステージによって支援の内容は変わりますが、このスナックの場合は、オーナーからの依頼で、ママが寿退職してしまうことによる売上の落ち込みや客離れという懸念があり、後任がいないなか、オーナー不在でもスタッフの力で売上と顧客満足を創り出すというミッションでした。

先ず、仕組みづくりからスタートし、営業前、営業中、営業後と、それぞれにやるべき業務を洗い出し、業務を標準化することで業務中に「何をしなければならないか」を明確にしました。

次に、売上目標を細かく設定し、合わせて評価システムを仕組み化することで、どうすればお店が続けられ、自分たちの収入にもつながるのかを明確にしました。ということで、この店の場合はママ不在でも取り敢えずオペレーションできることが最優先課題でした。オペレーションの土台を整えた上で、各自が顧客満足を考えるためのセッションや従業員同士でどんな店にして行きたいのかについての話し合いの場も持ち、お店やスタッフとしてのありたい姿を明確にして行きました。これが正にクレドづくりです。

こうした経緯は会社のステージによってさまざまで、ロジェの場合「人」の問題となると時間がかかるところではありましたが、目標に向かうためには人材育成に向けた共通の価値観が必要との考えはお互いに一致しましたし、安達さんはしっかりと経営チームをつくりたいという意志もあったので、安達さんを含めて3人の経営チームを結成してクレドを作ることにしました。

  

■ ミッションの作成からチームビジョンの設定へ

<安達>

経営チームに加えた2人は、以前から一緒に働いてきた信頼がおけるスタッフであり、ひとりでは乗り越えられない大きな仕事を助け合って成し遂げてきた仲間、戦友です。

メンバーのひとりは当社で成長し、ひとつの食堂のトップを任せているスタッフです。そのスタッフが遠隔でメニューを送り、作り方を従業員に教えてしっかりと利益を出し、私がいなくても機能する自律型組織ができています。

もうひとりは、当社のデザインを担当しているスタッフです。最初に、この2人にクレドを作るべく時間を取ろうと話しました。当時はまだ社内がバッドサイクルの最中だったため、他の社員には伝えず、こっそりと次のステージのために主力メンバーだけ集まって作っていく感じでした。

<上野>

最初にミッションを作りましたが、ロジェの場合は創業者である安達さんにヒアリングをしながら、一緒に言葉を探していきました。

後継者の場合は創業者が大切にしたいものをヒアリングしながら自分の思いを乗せていきます。

<安達>

それから経営チームでチームビジョンを作りましたよね。セッション自体は全3回で、1回3時間ほど時間をかけ、私たちのあるべき姿をひとつの文章にするために、上野さんの指導のもと、皆でいろいろな言葉を出し合って面白い絵を作っていきました。

<上野>

マインドマップを使って可視化していくという方法です。テーマを「チームロジェのありたい姿」としましたが、最初のこのテーマ設定が大事なのです。

図3:視覚会議®︎という手法を用いてチームのビジョンをアウトプット。(※文末参照)

<安達>

実は最初のテーマ設定は「5年後のロジェのありたい姿」でした。ただ、私は負のスパイラルの中にいてネガティブな感情しかない状況だったため、出てくる言葉が「あの店舗はあるかな」「あの店舗は閉店しているかな」と物理的かつマイナス思考のものばかりで、創造性のある話が全くできなかったんです。そこで上野さんがテーマ設定を「チームロジェはどんな風にあるべきか」と変えてくれたところ、ようやく頭が柔軟になって発展的な話ができるようになりました。

<上野>

やはりチームづくりも得たい結果のひとつだったため「チームロジェのありたい姿」とテーマ設定を切り替えたところ、たくさんのキーワードが出てきましたよね。流れとしては、まずは「未来」をテーマにした演習を行い、やり方に慣れてもらったあとに、専用シートに「チームロジェのありたい姿」のキーワードを各自で書き込んでいただき、重要だと思うものから出していって全員で共有していくというプロセスを踏みました。最後に投票で選ばれたキーワードが「楽しい」「チャレンジ」「驚き」などでした。これらのキーワードをつなげた作文がチームビジョンになります。

  

【チームビジョン~わたしたちの「あるべき」姿~】

驚きと感動のある

たのしい時間を提供するために、

各自の考える力を大切に

素直な気持ちでコミュニケーションをとり

どんなことにも協力し、

前向きに楽しくチャレンジする

  

<安達>

まず3人でそれぞれに作文を書いて発表し、最終的に私がまとめたのですが、キーワードだけがあっても最初は3人で全く別の文章になるんです。それが話していくうちに3人の作文が近づいて、ほぼ似通った文章になることが不思議でしたし、感動的でした。私の押し付けではなく、皆で作ったものになりました。

作文中の経営メンバーの様子。

  

<上野>

キーワードだけ挙げてつないだ文章と、プロセスを共有しながら作った文章は全然違います。トップダウンで下りてくるのではなく、皆で合意のプロセスを経て一緒に作り上げたことは大きく、この合意形成の過程を私はとても大事にしています。

<安達>

このチームビジョンを作る過程で、経営チームのスタッフが絶対に項目に入れたいといっていたのが「各自の考える力を大切に」という一文です。私が自営業の時は全てに自分の目が行き届かないと納得がいかなかったのですが、事業が拡大した今、それはできないので、だからこそ各自で考えて行動することで、その状況を乗り越えてほしいという言葉がスタッフから出てきたのが印象的でした。

<上野>

企業のなかにはクレド作成を外注してしまうところもありますが、やはり、合意のプロセスを取っているかが重要で、外部コンサルが考えた言葉ではなく、自分たちの言葉で表現しているのがとても大切なんです。安達さんたちは自分たちの言葉で作ったので思い入れのあるクレドが仕上がりました。

<安達>

それに、実はチームビジョンの前にコーポレートビジョンを作る流れでしたが、これも私は、目の前に心配事や不安が多すぎて、どういう会社にしたいかという発想力が何もなく、大きなビジョンが見えない状況でした。そこで、上野さんが「チームビジョンにしましょう」といってくれたので、コーポレートビジョンはひとまずおいておき、チームビジョン作りになりました。最初はネガティブ思考で何も発想が出て来ず、果てしない感じがしていましたが、チームビジョンが決まるとどんどんとスピードが上がっていきました。

<上野>

基本的に「MVV」といって「ミッション(Mission)」「ビジョン(Vision)」「バリュー(Value)」の3点セットでつくるものですが、安達さんがおっしゃったようにコーポレートビジョンがしっくり来なかったため、まずはチームビジョンを優先して作り、その次にコアバリューを作ったところ、途中から安達さんからどんどんアイデアが出てきたのが印象的でした。アイデアが止まらなくなるほどのフロー状態でしたよね(笑)

また、単にキーワードを出しただけではなく、キーワードとキーワードをつないで新しい言葉にすることが大切なんです。それぞれの思いを交えたディスカッションがあってこそ、今回のチームビジョンの作文になりました。

  

■ 自然と生まれたコーポレートビジョン

<安達>

こうした流れから、コアバリューは大切にしたい価値観のために「どんな仕事をしたいか」ということで話を進め、自分たちの心構えをどんどん出していきました。

<上野>

事例も見ていただき、過去にロジェでやってきたことも振り返ってもらいながら「自分たちらしさ」について考えたり、チームビジョンのキーワードに挙がった「楽しい」にまつわる具体的な思い出や、楽しかった時にしていた行動を出してもらって拾い上げていきました。

<安達>

話していくうちに、私は明らかにポジティブな言葉が出てくるようになりましたが、一番は上野さんが私の複雑になった頭の中のものを紐解いてくれたことにあります。可視化と言語化が大きかった。「自分はもしかしたらこういうことで悩んでいたのかもしれない」とか「当社の問題はシンプルにこれかもしれない」と、どんどん紐解かれていく感覚でした。ぐちゃぐちゃになったチームの現状をスッキリさせている感じがありました。

<上野>

私自身のスタンスは、一人ひとりの才能や強みを引き出し、それをつないでいくファシリテーション型のコンサルタントです。安達さんは10年間、ご自身のお店も経営されている創業者であり経営者なので、もともと持っている力をどうやって引き出していくかを考えました。皆が楽しく、その会社らしい場をつくり出すことが私の大切な役割です。

<安達>

こうしてチームビジョンをもとにコアバリューができると、自然と「こういう会社になりたい」という言葉がポロっと出てきました。上野さんから「それがコーポレートビジョンですよ」と言われたことが感動的で鳥肌が立ちました。最初は全然見えなかったコーポレートビジョンが、コアバリューまで見えたら、自然と自分たちのめざしたい会社づくりが見えたのです。

<上野>

私が嬉しかったのは、頼れる経営チームの方々と一緒に楽しそうに話している姿です。バッドサイクルからグッドサイクルに変わった瞬間に立ち会えたことが忘れられません。

  

■ クレドの浸透にはダイアログ(対話)が重要

<安達>

1回目の社内ミーティングでロジェとしての行動指針や価値観を従業員たちに示した時は気恥ずかしさもありましたが、意外にも「こういうものがほしかった」という反応が得られました。以前は共通の価値観も基準もない会社だったため、自営業の延長で来ていた自分の未熟さを感じました。

<上野>

それに、クレドを作っても残念ながら形骸化している企業も多々あるなかで、それを防ぐためには言語化し、可視化したうえでダイアログ(対話)の場を持つことがすごく重要です。ロジェでは、シンプルな対話を持ちながら振り返りをしていくために「KPT(けぷと)」というツールを現場に落とし込んでもらっています。現場とクレドで一致しないことがあったら改善し、アップデートしていくのです。

ちなみに、当社(U-NEXUS)はこのクレドの浸透に結構な時間を取っていて、毎週金曜日に「クレド浸透ミーティング」を行っています。コアバリューやビジョンなどのキーワードに対して皆の意見を聞くもので、例えば「ワクワクにあふれる世の中を創る」というビジョンの「ワクワク」とは具体的にどういうことか、お客様が感じるワクワクのポイントがどこにあるかを具体化していくことで、意識や解釈のズレを修正していきます。その解釈をすり合わせていかないと本当の意味での一致になりません。また、ただ解釈をしているだけですと実行が乏しくなるので、振り返りのツールを使いながら実行にしっかりと落とし込むことがセットです。

<安達>

当社の場合は全社員の仕事内容が違うので細かいすり合わせは難しいのですが、この「KPT」の図を壁に大きく掲げ、日常業務のなかで各要素で気づいた内容をそれぞれのスタッフが付箋に書いて貼り付け、それを軸に部署ごとにミーティングをしています。特徴的なのが「Keep(今後も続けること)」「Problem(問題)」「Try(挑戦すること)」の「「Keep」の項目を上野さんが「Keep&Good」(維持したいこと、よかったこと)」にするよう提案してくれたこと。周囲のスタッフが良いことをした時に書き込むのですが、私はサンクスカードのように人に良いことをされたら賞賛しなければいけないと考えているので、Goodが増えることで言われた人は嬉しく、伝えた人も感謝を表現できたという良い循環ができています。

図4:KPT(けぷと)。KeepとProblemとTryの頭文字をとってKPT。(※文末参照)

  

<上野>

「KPT」は3つの要素だけなのでとてもシンプルです。もともと「Keep」はうまくいっていることを続ける項目なので「Good」も加えました。この「KPT」をもとに振り返りをして、問題や改善点をあげてもらうのですが、一番大きいのが「Try=試してみたいこと、変えてみたいこと、チャレンジしたいこと」です。これを対話のツールとして確認します。

<安達>

例えば、とある部署では、コロナ禍でも集客ができるような広告を出したいという意見が1回目のミーティングで出て、SNSを使って1週間ごとに担当を交代して情報発信をしていくことになりました。びっくりしたのが、インスタグラムで「いいね」の数は毎回90ほどなのに、ある時に200を超えたこと。皆で何が良かったのかについて考える、良いサイクルが生まれました。以前はそんなことができず、理想としていた姿でした。

「KPT」を使った振り返り自体も、当初は大変そうに見えましたが、壁に貼り出して普段から可視化しているので、ミーティングの時点では問題点がすでに改善されていたり、対策を自分たちで考えて進めていることが多いんです。「こういう問題点があり、今はこういう対策をしているけどどうですか」と聞かれるので、ミーティング自体も予定の半分の時間、30分ほどで終わり、可視化の力を感じています。まだまだ改善が必要な部署もありますが、ミーティングを重ねるうちに改善点がスタッフから出て来るようになり、私が社内に共通の価値や基準を示していなかったことがバッドサイクルのひとつの原因だったのかなと振り返って思います。

<上野>

結局、コンサルタントは難しいことを指導・指示しがちですが、「KPT」のようにシンプルなものでないと続かず、続かないと成果につながらないので意味がないのです。

<安達>

それに、私はやはり「Good」の項目があると、話し合う前にほのぼのとした気分になって良いと思っています。昔働いていた職場のミーティングでは部署ごとに喧嘩のような雰囲気でしたが、Goodからミーティングに入ると、自分たちも良くなったうえで会社も良くしたいというポジティブな雰囲気からのスタートになり、良い雰囲気でミーティングが進められます。

  

■ クレド導入後の心境の変化と自律型組織の基盤

<安達>

劇的に変わったのは、私自身の心情です。やらなくていいことをまずスッキリさせることができました。コロナ禍で残すもの、変えるものに対する取捨選択もクレドをもとに自分で考えています。今まで判断に迷っていたところも、言語化した指針が判断基準になって、自分たちの価値観に合わないことは売上があっても断れるようになりました。厳しいコロナ禍でクレドが灯火になっています。

社内でも、セルフ化を進めようとしている食堂では従業員が自発的に返却口を作っていて、以前の自分なら怒りそうですが、今なら「よく自分たちで考えたね」と思うようになりましたし、思い切って行動したことが嬉しく思いました。こうした心境の変化は、上野さんと経営チームとで話しているうちに実感しましたし、やはりクレドの中に「各自の考える力を大切に」という項目を入れたことも大きく影響しています。

この食堂は最終的にはセルフ化を進め、利益率をあげるためにオペレーションも変えていく予定です。その際、お客様の満足度は以前より減るかもしれませんが、その分、従業員たちはもっと自分たちが作りたいものを作れるようになるので前向きに取り組めます。そのためにクレドを活用しています。

また、別の部署はトップのメンバーがいなくても業務が回っていて、そのうえで閉店時の締めの作業を入社2カ月のスタッフがチャレンジしていたりと、新人も早く仕事を覚えたいという意識を強く持っています。さらに、その部署に別の部署のスタッフがヘルプで入ると、パートスタッフも責任を持って働く姿に感動し、どんどんとよい空気になって見違える環境になりました。自分たちの考える力を大切にしているので、その部署に関しては、今は私は報告を受けるだけで成り立っています。

もうひとつの部署に関しては、以前は私が頼られていて「なぜ社長が来ないんだ」という雰囲気でしたが、ミーティングで「責任は全部自分が取る」と伝えたところ、自分たちで考えて行動するようになりました。

こうした流れから、私自身もどんどんと仕事を取っていこうとしたところ、年末にお弁当とおせちの受注が重なり、ひとりで抱え込んで自分の殻に閉じこもってネガティブになっていた時、スタッフが「素直にいえばいい」と言ってくれました。そこで社内に「力を貸してほしい」と伝えたところ、多くのスタッフから「この日は手伝えます」という連絡が届いたんです。その時、チームビジョンの「誰に対しても素直なコミュニケーション」という項目を忘れていた自分に気づきました。

<上野>

クレドを形骸化させず使い続けていただいているのが嬉しいですし、毎月のミーティングで社内の変化やアップデートした話を聞くのも楽しみです。

<安達>

このクレドの作成は、ひとりではここまでの文章は作れませんでしたし、仲間と共感し「そうなりたいよね」と話している時が楽しかったですね。

<上野>

まさに共感と共創ですね。ロジェの大切にしたい思いが、このクレドに詰まっています。

<安達>

コロナ禍において、このクレドがなかったら私はいなかったというほどのレベルで今の私には指針になっています。受けない仕事もはっきりと決められるようになりました。例えば、今までは値切り交渉に弱かったのですが、仕事量に対して見合わない金額を提示された際「別の仕事がなくなるかもしれない」というプレッシャーをかけられても、私たちの価値観には合わないと考え「この仕事を失っても後悔しません」と強い心で断った経緯があります。ただ面白いのは、値切りには応じないものの、儲からないボランティアの仕事は続けているということです。「コアバリューにある「食を通して社会問題と向き合おう」との信条のもと、心が強くなりました。

<上野>

今はそういう部分に共感する時代ですよね。

<安達>

ほかにも、先日はレタスに異物が入っていて、対応自体はしっかりできてお客様は笑顔で帰ってくださいましたが、以前にも一回あって洗浄回数や確認事項を話し合ってマニュアルを作成していたのに、それでも起きてしまいました。そこで「最終的な責任は自分が取るから、この失敗を糧にできることを100%考えてみよう」と従業員に伝え、今まで以上に話し合って対策を考えています。以前の私なら怒っていましたが、今はうまくお客様に対応できたことが素晴らしいと思っていますし、これまでのマニュアル以上のものが必要だと現場で考えてくれているのも嬉しく思います。もともと良いスタッフが集まっていて、クレドができたことで自立的に力を発揮できているのかもしれません。

まだまだクレドの活用の仕方があると思っていますし、「KPT」から発展し、今後は全部署の売上数値の開示ができそうです。そのうえで、クレドを軸に評価システムの数値化や目標設定などにもチャレンジしたいと思っています。

  

■ クレド導入をめざす経営者へのアドバイスと今後の展望

<安達>

私は創業者ですが、自営業から法人成りというかたちを取ってきたので、上野さんとのヒアリングやディスカッションを大切に進めていったことで、弱かった経営者の視点がだんだん見えてきた実感がありました。会社の状況や立ち位置は経営者によってケース・バイ・ケースではありますが、まずは問題点を可視化し、そのうえでクレドの作成を進めていくことが大事だと思っています。その点、上野さんは会社の問題点を可視化し発見してくれ、建設的な話ができました。結果的に、今まではひとりでやってきた商売人気質から抜け出せず、何でも自分が関わりたくなってしまっていたのですが、仲間を信頼して任せるところは任せ、そのうえで経営者として仕事を楽しむような自分の居場所をつくれるようになってきています。今も発展途上ではありますが、経営を黒字化に戻したら、もっと自分たちのやりたいことに特化し、従業員ももっと楽しんで仕事に向かえるような会社にしていきたいと思っています。

先日も、仕事ではありませんが、息子の野球チームの保護者会長が1年間頑張ってくれ、プライベートも費やしてくれたのに誰も称賛しないのはおかしいと感じ、サプライズで花とワインをプレゼントしました。驚きと感動の時間を共有できたことが嬉しく、仕事でもこういう喜びをもっと増やしていきたいと思いました。私自身がやりたいことは、このように、普通の飲食店とは違ったかたちで楽しんで業績を上げること。そこで、今はやるべきことをやりますが、今後、会社の資金が健全になったら、もっとクレドに沿ってやりたいことに特化した会社をめざしていきたいです。

出来上がったクレド 。社内スタッフの方がデザインを担当。

 

 編集者注:
 文中に出てくる「視覚会議」「マインドマップ」「KPT」について、株式会社U-NEXUS代表の上野は、「視覚会議」のビジネスパートナーおよび認定ファシリテーター、「マインドマップ」のインストラクター、KPTトレーナーの認定を受けています。



◆視覚会議®︎
 https://shikaku-kaigi.jp/


◆これだけ! KPT 【これだけ!シリーズ】
 https://www.subarusya.jp/book/b167190.html

 著者:天野 勝
 所属:株式会社永和システムマネジメント コンサルティングセンター センター長(発刊当時)